『 霧の倫敦・花の巴里 ― (1) ― 』
トン トン ・・・ トン。
気取った調子のノックが ドルフィン号のキャビンのドアで鳴っている。
「 はあい どうぞ? もう用意できているわ。 」
「 おう それはそれは・・・ では失礼いたすよ〜 」
慇懃な挨拶と一緒に ドアがゆっくりと開いた。
「 お待たせしたかしら?
」
「 いやいや 時間ぴったりですよ、マドモアゼル。 ― おお〜〜〜 」
りゅうとした背広に身を包んだ紳士は さっと身を引いて会釈をした。
「 これはこれは マドモアゼル・フランソワーズ。 いつにも増してお美しい。
今宵 エスコートできるとは光栄ですな。 」
「 うふふ・・・ もう〜〜〜 グレートったら〜 お上手ねえ ・・・
でも 可笑しくない?? わたし、シャネル・スーツなんて生まれた初めてなのよ 」
「 いやいや〜〜 実に実にようく映えて 完璧に着こなしておられますな〜〜
さすが パリジェンヌ〜〜 すばらしい〜〜〜 」
「 パリジェンヌはねえ こんなデザイナーズ・ブランドにスーツなんてとてもとても・・・
こういう服は左岸 ( リヴ・ゴーシュ )に住む上流のマダム達が着ていたわ。 」
「 本来は マドモアゼルのように輝くワカモノにこそようく映るのであるよ
いやいや 本当によくお似合いだ 」
「 え そう ・・? あ 今晩は誘ってくださったありがとう 」
彼女は すっと膝を折ってレヴェランスをした。
「 忝い〜〜 吾輩こそこのようなお美しいご婦人とご一緒できてシアワセです。
では ― どうぞ? 」
す・・・っと しなやかなキッドの手袋に包まれた手が差し出された。
「 メルシ ムッシュウ 〜 」
彼女も レースの手袋で包まれた白い手をそこに預けた。
「 いざ 参ろう 」
「 ムッシュウ? 」
二人は実に優美な足取りで 戦闘用潜水艦・ドルフィン号 からボーパスに乗り移った。
「 あ・・・ いってらっしゃ〜い ・・・ 」
ジョーはボーパスを見送りつつ 所在なさ気に手を振っていた。
「 行ったか 」
「 あ ・・・ ウン、 アルベルト。 二人ともなんか楽しそうだった ・・・ 」
「 ふん お前も付いてゆけばいいじゃないか 」
「 え ・・・ ダメだよ。 ぼく ・・・ そのぅ〜〜 気の利いたこととか
言えないし ・・・ グレートみたく女の子の手を引いたりできないし 」
「 は?? 手を引く・・って ・・・ お前なあ〜 エスコートって言葉
知らんのか 」
「 えすこ〜と??? なに それ。 」
「 は 日本ではそういうことは教わらんのか 」
「 え! 君の国では 学校で女の子の誘い方、教わるの? 」
「 いや そりゃエチケットというかオトナのマナーだぞ 」
「 マナー??? 電車の中じゃ ちゃんと携帯オフにする とか? 」
「 は。 ・・・ まあ 当分は俺達を見習うんだな 」
「 ウン ・・・ ぼく ・・・ フランと仲良くないたいんだ 」
「 あ〜〜〜〜 おめ〜〜〜 抜け掛けNG〜〜〜〜
のっぽの赤毛が飛んできて がしっとジョーの首ったまに腕を回す。
「 うわ〜〜お〜〜 ジェットォ〜〜 いきなりなだよ〜〜 」
「 だ〜から 抜け駆けはズルだぜ〜〜ってことさ〜〜 ほいっ 」
「 へ〜ん ひっかかるか〜〜〜 」
ジョーは 彼の腕を巧みにかわし反撃にでる。
「 お くるか〜〜〜 」
「 あはは〜〜〜 」
「 おいおい ・・・ ジャレあうのなら船倉にでも行けよ〜〜 ガキども 」
「 だはは〜〜 行くぞ〜〜 」
「 まてぇ〜〜 」
青少年は 陽気な声をあげつつコクピットから転げ出ていった。
「 ・・・ ったく〜〜 ほっんとうにガキだなあ 」
「 暴れたい年頃さかい しょうもおまへんな。 ほい お茶やで〜〜 」
ふくよかな料理人が カップを配る。
「 お ダンケ ・・・ う〜〜ん 上手い。 さすがだな〜 張大人。
あっと言う間に コーヒーの達人だな 」
「 ふぉ ふぉ ふぉ ・・・ ワテは料理人でっせ〜〜〜
できひん料理はおまへんで。 」
「 ふん ・・・ あ〜〜 ウマ・・・ 」
「 グレートはんは お嬢はんと出かけはりましたか 」
「 ああ ・・・ 」
「 さよか。 ええことや・・・ 嬢はん、このところなんとのう元気あらへんかったさかい 」
「 うむ ・・・ しばらくヨーロッパともお別れだからな ・・・
しばしの休日を楽しんでくればいいんだ。 」
「 アルベルトはん あんさんは ? 」
「 俺か? ・・・ 俺の祖国は もうない。 ここで十分さ 」
「 ・・・ ま 熱々のコーヒーでん 飲みなはれや 」
「 ・・・・ 」
アルベルトは いい香のたつカップを持ったまま 船窓からロンドンの空へとぼんやり
視線を飛ばしていた。
クリスマスの朝 ジョーはフランソワーズと一緒にドルフィン号に戻ってきた。
「 ・・・ 遅かったな。 心配していたぞ 」
アルベルトは厳しい表情で 二人を迎えた。
「 ウン・・・ ごめん。 ちょっとさ、キャビン、休めるようにしてもらえるかな。
その ・・・ フランソワーズの 」
「 ! どうした、損傷したのか 」
「 いや ・・・ 」
ジョーは首を振ったが その瞬間足元が揺らいだ。
「 おい! ジョー お前・・・ 」
「 損傷しているのはジョーの方よ。 博士にお願いします ・・・ 」
フランソワーズがぽつり、と言った。
「 街中で闘ったのか??? くそ 奴らパリまで 」
「 ちがうわ。 ・・・ いえ 奴らはここまで追ってきていたのかもしれないけど・・・
でも闘った相手は 奴らじゃないの。 」
「 新たな敵か? 」
「 ジョーを撃ったのは わたしよ。 」
「 ち ちがうんだ・・・ その・・ちょっとした行き違いで 」
「 ジョー。 ちがうわ。 わたしが狙って撃ったの。
博士! ・・・ ジョーを・・・ メンテナンスしてください ・・・ 」
「 なんじゃ どうした〜〜 」
ギルモア博士が どたどた奥のメンテ・ルームから飛び出してきた。
「 どうしたね。 む? フランソワーズ、 お前・・・ひどい顔色じゃないか。 」
「 いえ ・・・ わたしは ・・・ 」
ぐらり。 今度は彼女の姿勢が揺れた。
「 おっと ・・・ アルベルト、彼女をキャビンに。 ジェット! 手を貸してくれ。
ジョーをメンテナンス・ルームに連れていってくれ。 」
「 オーライ! おい 大丈夫かよ〜〜 」
「 ・・・ ウン ・・・ 」
「 へん ほらつかまりな〜 ったくよ〜〜 心配させやがってよ〜〜 」
「 ・・ ごめん ・・・ 」
「 フランになにした おめ〜〜 撃たれるなんてよ〜〜 」
「 ・・・ ウン ・・・ 」
「 ジェット! さっさとジョーを連れてゆけ! 余分な口は利くな。 」
「 へいへい〜〜〜 オッサンこそフランによ〜〜 」
「 お前 〜〜〜 」
「 お〜〜 こわ 〜〜 」
のっぽの赤毛は肩を竦めると、そそくさとジョーを連れていった。
「 ・・・ ごめんなさい ・・・ 悪いのはわたし ・・・ 」
「 口を閉じていろ。 お前さんもさっさとキャビンだ。 」
「 ・・・・・ 」
アルベルトは 彼女を抱き上げると足早にコクピットから出ていった。
クリスマスの朝 ― ジョーはメンテナンス・ルームでぼんやりと天井を見上げ。
フランソワーズは キャビンで滾々と眠りこけるのだった。
メリー・クリスマス ・・・ 二人の幻影の一夜が終わった。
「 なあ マドモアゼル。 明日・・・よければ一緒に外出しないかい。 」
年が改まった後、ドルフィン号はイギリスに寄港していた。
グレートは早速上陸したが 戻ってくるとさり気なくフランソワーズに声をかけた。
「 お帰りなさい ・・・ え? 外出って・・・買い出し? 」
「 いやいや・・・ ちょいと芝居でもどうかな、と思ってさ。 」
「 まあ お芝居? 」
「 さよう。 ちょうどロンドンでいいのが掛かっているんだ。 」
「 嬉しいわあ 〜 観劇なんて ・・・ 久し振り。 シェイクスピア? 」
「 いいや。 まあ 現代モノだ。 しかしいい作品だぞ。 」
「 ありがとう。 あ・・・でも服が ・・・ 」
「 え〜〜〜 差し出がましいとは思うが。 これを御召しいただけるかな
」
「 ― まあ ・・・ ! 」
彼は 後ろに置いていた大きな包みを差し出した。
「 実はな。 博士からも言付かっておって・・・ マドモアゼルの服を調達してくれ と。
あ〜〜 ・・・・サイズ36 でよかったかな? 」
「 ええ ええ。 ・・・え これ ・・・ シャネル? 」
「 ほっほ。 お国のブランドだ。 」
「 グレート〜〜〜 」
「 礼は博士に、 な。 」
「 ・・・・・ 」
「 ほらほら ・・・ 涙は似合わんよ、マドモアゼル。
支度時間は30分で いいかな 」
「 すぐに ・・・! 」
彼女は 大きな包みを抱えて自分のキャビンへと駆けていった。
クリスマスの朝、まだくらい時間に若い二人は帰ってきた。
迎えに行ったはずのジョーは負傷をし フランソワーズはぼうっとした表情だった。
二人は多くを語らず、ジョーはメンテナンス・ルームへ フランソワーズは自分自身の
ベッドへ直行した。
仲間たちも なにも聞かなかった。
ジョーの負傷はその日のうちに修復され フランソワーズも翌日からは普段とかわらぬ態度で
ドルフィン号のコクピットやら 食堂に顔をだした。
「 じゃ ・・・ ランドリー・ルーム使ってくるわ。 」
「 おう 頼む 」
「 ええ ・・・ 」
彼女は洗濯モノを抱えると 食堂を出ていった。
「 ふむ? ・・・ な〜んか元気ないなあ〜〜 マドモアゼルは 」
「 あはん? ほんになあ〜〜 聖夜いらいなとのう ぼ〜っとしはってまんなあ 」
「 ・・・ 巴里の聖夜は イヤな思い出だったのかな 」
「 ようわかりまへんなあ ・・・ なんぞオイシイもん、つくったげまひょか 」
「 それもいいが・・ ・・ ふむ ちょいと気分転換が必要かもなあ 」
「 きぶんてんかん? 」
「 さよう。 あ〜〜〜 午後からちょいと上陸してきてもいいかな? 」
「 ええよ。 ・・・ そろそろ欧州ともさいならですさかい、よ〜〜く故郷の空気を
楽しんで来なはれや 」
「 忝い ・・・ それはそうと 大人はどうなのかね。 」
「 ワテが なんです? 」
「 その〜〜 故郷の空気は 」
「 ほっ ほっ ワテはな〜〜 どこでん < 住めば都 > でんねん。
はよ どこぞに根ぇ おろして 料理店、開くのが望みでっせ。 」
「 ― お主は本当に逞しいなあ 」
「 お褒めのコトバ 謝謝〜〜 ほれほれ はよ出かけてきなはれ〜〜
晩ご飯までには帰りぃや
」
「 おうよ。 」
グレートはスーツに山高帽、ステッキを携え、故郷の街へと出かけていった。
― そして 帰ってくるなりフランソワーズを呼んだのだった。
ひゅう 〜〜〜〜 ・・・・
倫敦の街に冷たい風が吹き抜けてゆく。
「 おお ・・・ この街はまだまだ寒いな 」
「 そうね 新年すぐですもの ・・・でもこのコート 温かいわ 」
フランソワーズは 襟に毛皮のついた白いコートを嬉しそうになでる。
「 ふふふ ・・・ 美女に相応しいよ。 …ふむ? コートはいいがそれじゃ外では寒かろうよ? 」
「 え? 」
グレートは 彼女の手を指した。 ― 白いレースの手袋が眩しい。
「 オシャレの手袋なんて・・・ 何十年振りかしら。 」
「 大層お似合いだが ― この季節の外出にはちょいと寒々しい。
え〜〜 ・・・ ああ あの店に寄ってゆこう 」
「 え?? 」
グレートは彼女に腕を貸したまま どんどん道を行き、角の老舗店のドアを潜った。
「 ― なにか買うの? 」
「 温かい手袋をお選びください、マドモアゼル? 」
「 え・・・ あ でも時間 大丈夫? 」
「 余裕綽々だ。 実は ― 」
グレートは内ポケットからチケットを出し 彼女に渡した。
「 ・・・ あら。 これ ソワレ? 」
「 左様。 観劇の前にどこぞで アフタヌーン ティー でも如何かね? 」
「 あら 嬉しい! 」
「 ふふふ ・・・ ああ これなんかどうかな? 」
「 あらいい色ね 」
二人であれこれ探し、結局スウェードの手袋を買った。
「 ふふ ・・・温かいわあ 〜 」
「 よかった。 やっと笑顔が出たな、マドモアゼル 」
「 ・・・ え? 」
「 ふん。 クリスマスからこっち なんか元気がないなあ〜と思ってさ。 」
「 ・・・ ああ ・・・ そう ? 」
「 うむ。 なにがあったか知らんが ― マドモアゼルの笑顔が見られんのは
我らが偉大なる損失だ。 」
「 そんな ・・・ こんなおばあちゃんの笑顔なんて 」
「 マドモアゼル? 」
珍しくグレートは彼女の言葉を遮った。
「 なあ ― 一流のものは歳月が経ってもそうそう変わったりしまい。
古き良き我らが欧州では 特にな。 」
「 ・・・ うふふ ・・・ そうね ムッシュウ・・・いえ ミスター? 」
「 そうそう その笑顔だ。 ではお茶タイムにご案内いたしますぞ。 」
「 サンキュウ ミスタ・ブリテン 」
二人は 優雅な足取りでこれも老舗なホテルのティー・ルームに向かった。
「 うふふ・・・ イギリスの紅茶もなかなか ね? 」
「 お褒めに与り光栄です、マドモアゼル。 」
テーブル越しに 二人はにこやかに笑みを交わす。
「 あの ね これ ・・・
有名な作品なの? その … この時代で 」
フランソワーズは バッグからチケットを取りだし、しげしげと眺める。
「 うん? あ〜 いやあ〜 これは古い作品さ 40年以上昔の な 」
「
え …?
あ もしかして・・・ 」
「 左様 我輩が現役ばりばり の頃
主演した脚本 ( ほん ) なのだ 」
「 まあ … ! そう ね。 本当によいものはそうそう変わったりしない でしょ? 」
「 左様。 特に我らが芸術の世界では な。 優れたモノは時代なぞ簡単に飛び越える。
マドモアゼル そうだろう? 」
「 ええ ええ ・・・ ! ありがとう、グレート。
ああ 楽しみだわあ〜〜〜 オシャレをして観劇なんて ・・・ リセに通っている頃
兄に連れていってもらったきりですもの。 」
「 明日が千秋楽だ、存分に楽しもうではないか。
吾輩もお美しいマドモアゼルとご一緒できて光栄の至り 」
グレートは慇懃に会釈をした。
「 ムッシュウ。 おそれいります 」
フランソワーズは 最高の微笑を返した。
ゆるゆると優雅な時間が 英国の空に流れていた。
パシュ パシュ ・・・ パシュ ・・・!
模擬弾が次々と標的をひっくり返してゆく。
「 ・・・ ちぇ ・・・ 」
ジョーは スーパーガンを置くと 標的をチェックしため息を吐いた。
「 ― な〜〜んだって的中しないんだよ〜〜う ・・・ 」
ぽい、とゴーグルを外しほうりだした。
ここは ドルフィン号の格納庫。 バーチャルでの射撃訓練用のブースがある。
「 ・・・ あ〜あ ・・・ もう・・・ 」
お手上げ・・という顔をしたときに ドアが開いた。
「 ほお? トレーニングか 」
「 ― アルベルト。 なんか 用? 」
「 は。 俺の日課さ。 マシンガンのセフル・メンテをしたからな 」
「 セルフ・メンテ?? ・・・自分でメンテしてるの? 」
「 当たり前だ 俺の腕だぞ? 」
「 そりゃ そうだけど ・・・ 」
「 メンテの後には 試射は必須だ。 いざって時にジャムった では済まされん。」
「 ・・・ すご ・・・ 」
「 当たり前だろうが。 で お前さんは射撃トレーニングか。 」
「 そうだよっ! キミも知ってるだろ。 ぼくのヒット数の低さ ・・・ 」
「 オートにセットしておけば 一応はヒットするはずだが。 」
「 そりゃ 当たるさ。 けど 的中 じゃないんだ。 」
「 まあな。 的中か否かは最終的には自分自身の感覚で撃つからな。 」
「 その感覚とか ・・・ どうやればわかるの? 」
「 自分自身で覚えるしかねえ。 お前の感覚を俺が教えられるわけ ないだろ 」
「 ・・・ う ・・ ん ・・・ そうだね ・・・ あ〜あ ・・・ 」
ジョーは天井を向いて 溜息吐息だ。
「 ふん ・・・ しかしお前さん、今まで銃なんかロクに使ったこと、ないんだろ? 」
「 使うどころか! 見たこともない。 せいぜいが水鉄砲か銀玉ピストルさ
日本は 銃禁止社会なんだ。 」
「 俺たちは 生き残るために撃つしかなかった。 生きるため だ 」
「 ごめん ・・・ ぼく ・・・ 」
「 ま お前のせいじゃないけどな。 しかしなんだって射撃訓練に熱を入れ
始めたんだ? お前だってここまで闘ってきたじゃないか。
負けたらヤラレルって 実感しただろうが。 」
「 う ん ・・・ けど だから。 もっと的中しないと ってさ 」
「 はあん? イブの夜 なにがあった? 」
「 ― 別に。 」
「 BGの手先に撃たれたのか 」
「 ちがう! ぼくは ― その ・・・ 」
「 ? まあ 動機なんぞどうでもいいが。 まずは 慣れること だ。 」
「 ウン。 ありがとう! アルベルト〜〜 」
「 ふん せいぜい頑張れ。 ― 彼女が本気になったらお前なんぞ一発で昇天 だ。」
「 ・・・ ひえ ・・・・ 」
え。 ― バレてる???
「 惚れた女を護るためってのが 最強の動機になるもんさ。 」
「 え あ ・・・ 」
「 俺たちは 自分自身の身をもって覚えたがな。 ま それはお前とは関係ないな。
彼女のためなら できるだろ? 」
唇の片方をねじ上げちらり、と笑うと、アルベルトは試射のブースに籠ってしまった。
「 ・・・ う〜〜〜〜〜 ・・・ ! 慣れてやる〜〜〜
百発百中になるんだ〜〜〜 」
ジョーは 脇に転がしてたスーパーガンを 改めて握りなおした。
― 今のまんまじゃ フランを護れないじゃないか・・!
ぼくなら喜んで 標的になるさ、フランを護るためなら!
けど それじゃダメなんだ。
ぼくは 彼女を護りたい いや 護るんだ ― 一生 !
「 ・・・・ 」
ひよひよした < 新人 > は 最強のメンバー へと第一歩を踏み出した。
ざわざわざわ ・・・ ははは ・・・ ほほほ ・・・ クスクスクス・・・
劇場のロビーは 華やかな雰囲気で満ちている。
社交界の面々が集う一流劇場とは違うけれど、 人々はそれぞれ装いをこらし
皆 舞台への期待でわくわくしている。
だから 自然に笑顔が弾け会話は声高となるのだろう。
「 ・・・ うふ ・・・ 好きだわあ〜・・・ この雰囲気 」
フランソワーズはロビーを見回し 賑やかな空気に顔をほころばせる。
「 よかった・・・ ちょいとお待ちいただけますかな 」
「 ええ。 なにか御用? 」
「 うむ ・・・ これをレセプションに預けようと思ってな 」
グレートは途中で買ったトルコ桔梗の花束を見せた。
「 キレイねえ・・・・ あ 今日出演の ・・・ この俳優さん へ ? 」
フランソワーズは 手にしたプログラムを指した。
「 いや 主演のヤツは知らんな。 演出家が昔の仲間なんだ。 」
「 まあ そうなの? きっとびっくりして大喜びよ、 その方 」
「 どうかな。 それよりも ―
マドモアゼル? 」
「
はい? 」
「 吾輩は いつの日にか お主の楽屋に、プリマ・バレリーナへ花束を届けたいですな ―
そう、 真っ赤な薔薇を 」
「 ―
ま あ わたしのこと、 知っている の?
」
「 立ち居振る舞いをみていればすぐにわかるさ
ダンサー、 クラシックのダンサーだろう? 」
「 ―
を 目指していたわ
もうずっと昔のことよ ・・・ 」
「
では また 目指せばよい。 再び 挑戦すればよいのだよ。 」
「 ― グレート ・・・ 」
「 お・・・ そろそろ始まるな では いざ 」
「 ええ ああ 〜〜 このワクワク感、大好きよ〜〜
ふふふ ・・・ 本当はね、幕の向こう側で感じる方が好きなんだけど 」
「 吾輩も さ。 まあ 今夜のところは客席で楽しもうではないか。 」
「 ええ サンキュウ、ミスタ・ブリテン。 」
ロビーにいた観客たちも 三々五々、席に付き始めた。
わ〜〜〜〜〜 パチパチパチ 〜〜〜〜 ブラヴォ〜〜〜
再びライトが点いた時、客席は万雷の拍手となった。
スタンディング・オベーションをしている人も見受けられる。
「 ・・・ ふう〜〜〜 ・・・ よかった わ ・・・! 」
フランソワーズも 夢中で拍手を送っている。
「 楽しんでいただけましたかな、マドモアゼル 」
「 ええ ええ とっても! うふ ・・・ 涙、出てきちゃった ・・・ 」
彼女はハンカチでそっと目尻を拭った。
「 なんか こんな気持ち ・・・ ずっと忘れていたの。
ああ ・・・ 心がね 心の中の泉がね また溢れ出してきたみたい ・・・ 」
「 いい笑顔だ マドモアゼル。 吾輩が見た最高の笑顔だよ? 」
「 あら お上手ね ・・・ ああ でも 本当に ・・・
ね! この主役を演じたの?? 」
「 左様。 初演の主役は吾輩だったさ ・・・ まだまだ青臭い俳優だったが 」
「 観たかったわ。 」
「 いやいや ・・・ あ〜ちょいと楽屋に顔を出したいのだが
お付き合いいただけますかな。 」
「 ええ ええ 喜んで! お友達の演出家さんに感動しましたってお伝えしたいわ 」
「 ありがとう、マドモアゼル。 では いざ 」
「 はい。 」
終演後のごったがえしているロビーを抜け、二人は楽屋に向かった。
― ざわざわ ざわ ・・・
舞台裏では多くの人間が出入りしていたが 終演後の開放感とは少し違った空気があった。
「 なにか あったみたいね? 」
「 ふむ? 」
二人は 邪魔にならぬよう、端を通って関係者控室に向かった。
「 ― あ〜〜 ジョン ? 」
開いていたドアをノックし グレートは部屋の中に声をかけた。
「 ! !! グレート 〜〜〜〜 !!! 」
初老の紳士が 跳びあがらんばかりの勢いで突進してきた。
「 よく来てくれたっ!! ああ〜〜〜 いったいどこに雲隠れしていたんだい? 」
「 ジョン!! よかったぞ! ああ この作品は本当に名作だな 」
「 ありがとう! ありがとう〜〜〜 」
二人は固くハグし合い、がっしりと握手を交わした。
「 ジョン。 ― なにか あったのか? 」
グレートはすぐに真顔になり単刀直入に尋ねた。
「 ― あ ああ ・・・ そうなのだ。 実は ― 」
Last updated : 05,10,2016.
index / next
************* 途中ですが
え〜〜〜 平ゼロ あのお話の裏・捏造編??
倫敦の霧 とか 幻影の聖夜 とか 好きなんです〜
で 続きます♪